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ゲーム内施策に関する法令対応ガイドライン(景表法・資金決済法・刑法

 
  1. 総論:なぜ法令対応が必要か
背景と目的
  • 市場の多様化: ゲーム内で導入される施策(仮想通貨、課金ポイント、ガチャなど)は、単なるエンターテイメントに留まらず、金融商品や投資的要素を含む場合があるため、消費者保護の観点から各種法令の適用対象となります。
  • 企業リスク管理: 法令違反が発覚すると、行政処分や罰則、さらにはブランドイメージの低下、訴訟リスクに発展する可能性があります。企業としては、事前に法令リスクを回避するための仕組み構築が必要です。
  • ユーザー保護: 不透明なキャンペーンや景品表示により、消費者が誤認や不利益を被るリスクを低減するためにも、透明性のある情報開示と適切な対応が求められます。
  1. 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)
2-1. 景品類に該当する条件
  • 顧客誘引目的: 商品やサービスの購入を促すために提供される景品は、単なる広告以上の経済的インセンティブとなるため、法令上厳しい基準が設けられています。
  • 取引付随: 景品が提供されるのは、主たる商品やサービスの取引に伴って行われるものであることが前提です。たとえば、特定のゲーム内アイテムを購入した際のボーナスポイントなどが該当します。
  • 経済的利益: 物理的な商品や金銭的な還元など、ユーザーに直接的な経済的利益が発生する場合、その評価額が基準を超えないか確認が必要です。
2-2. よくあるケースと対策
  • 値引きキャンペーン:
    • 例:期間限定の半額セールなど、社会通念上適正な値引きは一般に認められますが、極端な値引きは不当と判断される可能性があるため、内部ルールや試算シートを活用して適正な範囲を明確化します。
  • セット販売:
    • 複数商品をセットにする場合、セット全体としての価格が合理的かつ個別商品の価値と合致しているかを検証し、景品表示法の対象とならないよう独自性を持たせる工夫が必要です。
  • オリジナルグッズ:
    • 市場価格が存在しない、または定価が明確でないアイテムは、景品規制の対象から外れる場合が多いですが、その場合も内部で適正な評価基準を設けると安心です。
  • 権利販売:
    • ゲーム内で提供される限定コンテンツなど、高い価値を持つコンテンツを低価格で販売する場合、契約自由の原則に基づく取引と判断されますが、事前に消費者への説明責任を果たすことが重要です。
2-3. キャンペーンと景品額制限
  • 総付景品:
    • 商品購入時に必ず付与される景品は、商品価格の20%以内かつ上限金額2,000円以内に収める必要があります。たとえば、1,000円の商品購入であれば、景品の評価額は200円以内に抑える必要があります。
  • 一般懸賞・共同懸賞:
    • 抽選や成績によって景品が授与される場合、商品価格の20倍以内、ただし上限は10万円となっています。複数事業者が連携する場合も同様の基準が適用されます。
  • オープン懸賞:
    • 応募条件が無条件の場合は、法令の規制対象外となるケースもありますが、誤解を招かないように表現に注意する必要があります。
2-4. 表示上の注意点
  • ポイントの種類の明示:
    • 有償ポイントと無償ポイントの区別をはっきりと表示することで、ユーザーが混乱せず適切に利用できるようにします。
  • キャンペーン情報の根拠保存:
    • 値引き額や景品額の算出根拠、キャンペーンの詳細な条件など、内部で記録・保存する仕組みを構築し、後日の行政調査に備えます。
  • 文言設計:
    • ユーザーが誤解しないように、景品やキャンペーンの文言はシンプルかつ明確に記述し、必要に応じてFAQやヘルプページで補足説明を提供します。
  1. 資金決済法(前払式支払手段)
3-1. 規制対象になる条件
  • 有償販売:
    • ユーザーが実際に金銭を支払い購入する前払式の支払手段が対象です。ゲーム内通貨などもこのカテゴリーに該当する場合があります。
  • 有効期限が6か月以上:
    • 一定期間(6か月以上)の有効期限を設定すると、資金決済法上の規制対象となります。短期間(6か月未満)に設定することで規制対象から外す対策が取られます。
  • 複数用途:
    • 複数のサービスやアイテムに利用できる場合、消費者保護の観点から、より厳しい規制の対象となる可能性があります。
3-2. 回避策
  • 用途の限定:
    • 販売するアイテムやポイントを、特定の用途に限定することで、法令上の「前払式支払手段」としての認定を避けます。
  • 短い有効期限:
    • 有効期限を6か月未満に設定することで、規制対象外となる場合があるため、キャンペーン設計時に有効期限の見直しを行います。
  • 投げ銭形式の採用:
    • スパチャ方式など、送金行為とは異なる構造を採用することで、法令上の支払手段としての扱いを回避する方法も検討します。
3-3. 表示上の工夫
  • ポイント内訳の明示:
    • 例えば「有償100pt+無償20pt」といった内訳表示は、ユーザーがどの部分に対して支払いが発生しているのかを明確に示すために不可欠です。キャンペーンで増量が行われる場合も、内訳を詳細に記載することが求められます。
3-4. 半年に一度の報告義務
  • 報告のタイムライン:
    • 毎年3月31日と9月30日を基準日とし、翌月中旬(4月15日、10月15日)までに、法定の報告義務を履行する必要があります。
  • 報告内容:
    • ユーザー別の有償残高、無償ポイントの使用状況、失効状況など、詳細なデータの集計が求められます。また、有償残高の1/20相当額を供託するか、もしくは報告する方法が選択肢となります。
  • 内部システムの整備:
    • 半期ごとのデータ集計と自動レポート機能の導入、及び必要データの保存・管理システムの整備が不可欠です。
  1. サービス終了時の対応(払戻し)
4-1. 払戻しの対象
  • 有償前払式支払手段:
    • ユーザーが実際に購入した有償ポイントや前払式支払手段については、サービス終了時に返金対象となります。対して、無償ポイントは対象外です。
4-2. サービス終了時のフロー
  1. サービス終了の決定:
      • 経営判断または法令改正などに伴い、サービス終了の最終決定を行います。
  1. 事前告知:
      • ユーザーに対して、サービス終了の1〜2か月前に、告知メールやアプリ内通知、公式サイトでの告知など複数のチャネルを通じて情報を周知します。
  1. 返金申請受付期間:
      • サービス終了日から60日以内に、返金の申請窓口を設け、ユーザーからの申請を受け付けます。
  1. 返金処理:
      • 指定された銀行口座等への振込など、迅速かつ正確な返金処理を実施します。ユーザー確認のための認証プロセスや、返金額の計算ロジックの整備が必要です。
4-3. 必須機能・システム要件
  • ユーザー識別:
    • ユーザーIDおよび課金履歴に基づく正確なユーザー識別システムを構築し、不正な返金要求を防ぎます。
  • 利用履歴の保存:
    • 有償および無償ポイントの使用状況を正確に記録・保存し、返金対象額の算出根拠とします。
  • 告知導線の整備:
    • サービス終了や返金手続きに関する情報を、アプリ内やWebサイト上でユーザーが容易にアクセスできるように配置します。FAQやチャットサポートの充実も検討します。
  1. 刑法:ガチャと賭博罪
5-1. 賭博罪と見なされる条件
  • 財物の賭け:
    • ユーザーが現金や有価物を賭ける行為がある場合、賭博の成立要件となります。
  • 偶然性:
    • 抽選やランダム要素が強く、結果が完全に偶然に依存する場合、賭博として法的に問題視される可能性があります。
  • 財物獲得の争い:
    • ユーザー同士が財物の獲得を目的に参加する場合、賭博の要素として認定されるリスクがあります。
5-2. ガチャ施策での対策
  • 最低保証アイテムの設定:
    • ガチャにおいて、ユーザーがいかなる結果であっても最低限の価値あるアイテムが提供される設計とすることで、賭博性を軽減します。
  • 換金性の排除:
    • ガチャで得たアイテムが、譲渡や現金化など他の価値に変換できないよう、利用条件や利用規約に明記し、実際のシステム設計でもその制約を担保します。
  • リスクマネジメント:
    • 「何も得られない」状態を極力避け、ユーザーに対して期待値があることを示す施策(例えば、ガチャ実施後のリザルト表示の工夫など)を検討します。
  1. 実務チェックリスト
各施策を実施する際の内部チェックポイントとして、以下のリストを用いることで、法令対応状況を定期的に確認・改善することが可能です。
チェック項目対応状況(✔/✘)備考・具体策
有償/無償の表示分離✔ / ✘アプリ全体で一貫したUI、文言表記の確認
景品額制限の超過有無✔ / ✘キャンペーン前にシミュレーション試算を実施
サービス終了時の返金フロー準備✔ / ✘告知方法、ユーザー識別、返金計算システムの検証
半期報告体制の整備✔ / ✘自動集計システムの導入、内部監査の実施
ガチャ最低報酬の設計✔ / ✘ガチャシステム内の最低保証設計、リスク評価の実施
禁止事項の利用規約反映✔ / ✘譲渡不可、換金不可等の利用規約文言の明確化
実務への応用
  • ドキュメント管理:
    • PPT版やExcelのチェックリスト、UI設計補助資料など、各種内部資料として展開することで、関係部署間での情報共有とコンプライアンスの徹底が可能となります。
  • 社内研修:
    • 各法令に関するポイントや対策方法を社内研修で周知し、各プロジェクトでの実務に落とし込むことが望まれます。
  • 外部専門家との連携:
    • ゲーム施策の複雑さから、必要に応じて弁護士やコンプライアンス専門家と連携し、最新の法令改正情報を反映させる体制を整えることが推奨されます。