Phase2:事業拡大期における管理部門強化戦略
総論(全体方針)
- バックオフィスの専門性強化
事業が拡大していくにつれ、バックオフィスは「対応力」や「スピード」に加えて、「正確性」や「リスクマネジメント」の重要性が高まる。特に経営判断をサポートできる管理部門が不可欠であり、業務レベルや専門性に応じて担当者の専任化を進める。
- スピードと柔軟性の維持
急成長期の企業では、新しい試みが次々に出てくるため、厳密すぎるルール設定がイノベーションを阻害する可能性もある。ある程度の枠組み(基本のガイドライン)は整備しつつも、必要に応じて柔軟に変更できる仕組みを持つことが重要。
- リスクマネジメントの強化
取引先や従業員数の増加に伴い、法的リスクや労務リスク、財務リスクが大きくなる。早期の段階からリスク把握とリスク対応策を整備し、問題が生じた場合に迅速に対処できる体制を作る。
- 業務のルール化と標準化
担当者が増えることで、個々の裁量に任せすぎると業務が属人化しやすい。マニュアル化やフロー図の作成、テンプレートの整備などを進め、ナレッジを組織として蓄積していく。結果としてスピード感を維持しながらも、業務品質を底上げできる。
- 求められる能力
- 変化への対応力:新規事業や新サービス立ち上げなどにも即応できる柔軟性
- 体当たりの実行力・突破力:課題や障害に対して、まずは行動し解決策を探る姿勢
- 固定概念にとらわれない柔軟な発想:バックオフィス業務も最新ツールやアウトソーシングなどを積極的に検討
- リスク管理意識と計画性:急拡大時のトラブルを最小化するための予防策
1. 経理・税務
担当者
- 経理担当者(専任化を検討)
- 外部リソースとして税理士との連携(税務、月次決算のレビューなど)
業務内容の詳細化
- 経理業務のデジタル化を推進
- クラウド会計ソフトの活用:
- 経費精算、請求書発行、入金消込などを一元管理できるシステムを導入。
- API連携や自動仕訳機能を活用し、作業工数を削減する。
- ツール選定のポイント:
- カスタマイズの柔軟性、サポート体制、従業員との連携しやすさを重視。
- 安易に多機能を求めるよりも、必要な機能を確実にカバーできるツールを選ぶ。
- リアルタイム経理の実現
- 記帳業務の頻度向上:
- これまで月末や月初にまとめて処理していたものを、可能な限り週次あるいは日次で仕訳入力・チェックを行う。
- 予算管理と差異分析の迅速化:
- 部門別に予算を設定し、差異が大きい場合は速やかに原因を分析し対策を講じる。
- 数字を即座に経営者にレポートできる仕組みを整備(リアルタイムBIツールなども検討)。
- キャッシュフロー管理の強化
- 大きな出入金の監視・管理:
- 取引先が増えることで入出金サイクルが複雑になるため、支払いサイト・回収サイトを一覧化し、先々の資金需要を把握する。
- 資金繰りの多角化:
- 銀行融資だけでなく、クラウドファンディングやベンチャーデットなど、さまざまな資金調達手段を検討。
- 金融機関とのリレーション構築:
- 定期的な情報共有(試算表の送付や事業計画の説明)を行い、信用力を高めておく。
- 税務対応の最適化
- 外部の税理士との連携強化:
- 月次・四半期ごとのレビューや節税策の検討を行い、税務申告の正確性と負担軽減を図る。
- 税制改正の情報収集:
- 新たな税制優遇策や補助金情報をキャッチアップし、必要な手続きを漏れなく行う。
- 海外取引がある場合の対応:
- 輸出入や海外進出が発生した場合、関税や移転価格税制、消費税の仕組みなどを早期に把握する。
2. 総務・法務
総務
担当者
- 総務担当者(専任化を検討)
- IT管理者やオフィス管理担当などの役割分担も必要に応じて検討
業務内容の詳細化
- 日常業務の効率化
- 業務の可視化・システム化:
- オフィス周りの問い合わせ対応や備品発注、郵送物管理などをシステムやワークフロー管理ツールで一元管理。
- 外注可能な業務(定形作業や資料送付など)は積極的にアウトソーシングを検討。
- 来客対応・受付システム:
- タブレットやウェブ受付システムを導入し、受付業務の負担を軽減する。
- 社内情報管理の強化
- コミュニケーションツールの導入:
- 例:チャットツールやオンライン会議システムを活用し、情報共有の高速化を図る。
- 業務マニュアルの作成・更新:
- 業務が増えるに従いマニュアルが更新されないケースが多い。担当者に任せるだけでなく、定期的に見直しを実施。
- 社内規程の整備
- コンプライアンス強化:
- 業務フローや社内規程を整備し、労働時間管理やハラスメント防止措置を明文化して周知徹底。
- 業務標準化:
- ドキュメント管理手順、承認フローなどを規定化することで、担当者が変わってもスムーズに業務を引き継げる。
- ITシステムの導入・管理
- クラウドサービスの活用:
- 社内向けファイルサーバーやプロジェクト管理ツールなどをクラウドベースで導入し、コスト削減とセキュリティ強化を両立。
- 情報セキュリティ対策:
- アクセス権限の設定、情報漏洩対策、定期的なセキュリティ教育などを実施。
- BCP(事業継続計画)の検討:
- 災害時やシステム障害時に備えたデータバックアップやテレワーク体制を検討する。
法務
担当者
- 法務担当者(専任化が難しい場合は、総務や経営管理担当が兼任)
- 外部専門家(弁護士、司法書士、行政書士、弁理士)
業務内容の詳細化
- 契約書の整備と管理
- 契約書テンプレート化:
- 基本的な取引形態ごとに契約テンプレートを整備し、リスクポイントを事前に織り込む。
- 電子契約システムの導入:
- 契約締結までのフローを短縮し、紙の管理コストを削減。契約書の検索・管理も容易に。
- 契約の更新・期限管理:
- 自動更新、解約通知の期限などをシステムで管理し、更新漏れを防ぐ。
- 法的リスクの管理
- 事業拡大に伴うリスク洗い出し:
- 新規サービスや新市場への進出時に法規制の確認を行い、必要に応じて許認可・商標登録などを取得。
- 知的財産権の管理強化:
- 特許、商標、著作権などの出願・登録手続きを外部専門家と連携して進め、自社ブランドや製品を保護。
- 内部統制・ガバナンス:
- 自社内で「承認フロー」や「決裁ルール」を明確化し、不正やトラブルの予防を行う。
3. 人事・労務
担当者
- 人事担当者(専任化を検討)
- 外部リソースとして社労士との連携
業務内容の詳細化
- 採用活動の強化
- 採用計画の策定:
- 事業目標に基づいて、採用人数・時期・予算を明確化。中途・新卒を含むバランスを検討。
- 採用チャネルの多様化:
- リファラル採用(社員紹介制度)やSNSを利用した広報活動、採用イベントへの出展など、複数のチャネルを活用。
- 企業ブランディングの強化:
- 採用ページやSNSで自社のミッションやビジョン、社内カルチャーを発信し、求職者とのミスマッチを防ぐ。
- 労務管理の強化
- 勤怠管理システムの導入:
- 休日出勤や時間外労働の集計を自動化し、リアルタイムで勤怠情報を把握。
- 給与計算・社会保険手続きの効率化:
- 給与計算システムと勤怠管理システムを連携させ、人的ミスを減らす。
- 外部社労士との連携:
- 労働基準法や社会保険関連の最新情報を常に取得し、法令遵守を徹底。
- 社内環境の整備
- 福利厚生の充実:
- 例:各種保険、交通費補助、健康診断、カフェテリアプランなど、企業規模や社員ニーズに合わせた制度を導入。
- 研修・キャリアパス整備:
- 新入社員向け研修や、管理職向けリーダーシップ研修などを体系的に準備。
- キャリアステップを可視化し、社員の成長意欲を高める。
- 退職対応と定着施策
- 退職時のフォローと引継ぎ:
- 退職者へのヒアリングや、ナレッジの文書化などを行い、組織として知見を残す。
- 退職後もアルムナイネットワークを活用して関係を維持する企業事例もある。
- 従業員エンゲージメント向上:
- 定期的な1on1ミーティングで課題や希望を吸い上げる。
- 評価制度を見直し、成果が正当に評価される仕組みを築く。
Phase2のポイントまとめ
- バックオフィスの体制を専門性のある人材へ移行しつつ、既存スタッフとの連携を保つ。
- 現場の感覚を大事にしながらも、各分野のプロフェッショナルを迎え入れ、組織の知見を高度化させる。
- 経理の早期化・透明化とキャッシュフロー管理を徹底。
- 週次や日次での仕訳や差異分析を行い、数字をリアルタイムに把握。資金繰りを安定させる体制づくりが重要。
- 総務・法務では規程整備や契約管理を効率化し、リスクを最小化する。
- 社内規程の策定・運用と、契約書テンプレートの整備などで「属人化」を防ぎ、リスクヘッジを徹底する。
- ITシステムとデータ管理を最適化し、業務のデジタル化を推進。
- 無理に最新ツールを導入するのではなく、使いやすさや現場との親和性を重視。将来の拡張性も考慮する。
- 人事・労務では適切な人材確保と定着施策に注力し、組織の安定性と生産性を高める。
- 採用チャネルの多様化、評価・研修制度の整備など、社員が成長しやすい環境を整備することで離職率を低減。
まとめ
- スピードと柔軟性を維持しながら、リスク管理・業務標準化に着手するバランス感覚が重要。
- 事業拡大に伴い発生する課題を「リスク」と捉えるだけでなく、組織強化のチャンスと捉えてシステム導入や規程整備を進める。
- このフェーズでの取り組みが、次のより大規模なフェーズ(Phase3以降)でのさらなる成長に向けた土台となる。
以上の内容を踏まえつつ、事業拡大のスピード感に合わせてバックオフィス部門も強化し、専門性と柔軟性を兼ね備えた体制を築いていくことがポイントです。