Phase3:上場準備初期段階のガバナンス整備戦略
総論(全体方針)
- リスク管理体制の確立
- 企業の成長に伴いリスクが多様化・潜在化するため、早期に体系的なリスク管理を行う必要がある。
- リスクアセスメントの実施:事業リスク、コンプライアンスリスク、財務リスク等を定期的に洗い出し、優先度に応じた対策を計画。
- リスクマネジメント方針の制定:組織全体で共有できるよう明文化し、各部門の責任と権限を明確化。
- 内部監査機能の拡充:リスク評価や内部統制のモニタリングを行い、経営陣へのフィードバックを強化。
- 柔軟性を持った組織整備
- 「保守的な体制」を整える前段階として、イノベーションを促進する文化を損なわないよう配慮する。
- トライ&エラーを許容する風土づくり:失敗から学ぶ仕組みを社内に浸透させる。
- 組織体制の見直し:各部門の役割や業務範囲を再定義しながらも、実験的なプロジェクトを続行できる柔軟性を確保。
- バックオフィスの構造改革
- 業務フローや手続きを大幅に見直し、効率性とスピードを向上させる。
- 過去の慣例や属人的な方法に囚われず、新しいクラウドサービスや業務オペレーションツールを積極的に導入。
- プロセスごとのKPI設定:経理・総務・法務など各機能で目標指標を明確化し、改善サイクルを回す。
- 事業サイドとの連携強化
- ガバナンス側と事業部門が協力し、事業成長に即したルールや手続きづくりを行う。
- 定期的な情報共有会議の実施:事業戦略や開発方針を把握し、規程の変更や新規ルール策定時に反映させる。
- 形式的な規制に終わらない運用:事業現場の実情を反映し、実効性の高いコンプライアンス体制を構築。
1. 経理・税務
担当者:経理担当者(専任)+ 税理士(外部リソース)
業務詳細
- 経理業務の高度化
- 月次決算のスピード・正確性向上:
- 各種仕訳の自動化やリアルタイム管理を行うクラウド会計システムの導入。
- 月次決算を翌月第○営業日までに完了させるなど、締めスケジュールの明確化と共有。
- 経理担当者のスキルアップ:
- 新しい会計基準やツールの学習機会を設定し、業務の専門性を高める。
- キャッシュフロー管理の強化
- 大口取引(売掛・買掛)の与信管理を見直し、資金繰りリスクを軽減。
- 中期投資計画を踏まえたキャッシュフロー予測:将来的な設備投資・人材投資も考慮した定期的な資金計画レビュー。
- 会計基準の整備
- 上場を見据えた財務報告の透明性確保:
- 日本基準からIFRS(国際財務報告基準)への適用可能性を検討し、早期から移行準備を進める。
- 開示レベルの引き上げ(注記の充実、リスク情報の開示など)。
- 管理会計の導入
- 収益性分析・KPI設定:
- 製品別・サービス別の採算ラインを明確化し、意思決定に活用。
- コスト削減と利益最大化を支援するデータ分析:
- 予実管理データを踏まえ、経営層や事業責任者が迅速に判断できるようにダッシュボード等を整備。
- 社内規程の標準化
- 経理業務プロセスのマニュアル化:
- 伝票処理から支払処理までを一貫して標準化し、属人化を防止。
- 新任担当者でもスムーズに対応可能なオペレーション体制を構築。
- 予実管理の開始
- 部門ごとの予算策定プロセス:
- 事業計画に基づき、年度予算や四半期予算を設定し、責任者との合意形成を図る。
- 実績比較のフォーマット統一:
- 定期レポート化により、問題点や差異を可視化して原因分析・対策を検討。
2. 総務
担当者:総務担当者(専任)
業務詳細
- 社内規程・ルール整備
- 労務管理やガバナンス強化の観点から、必要な規程類(就業規則、コンプライアンス規程など)を定期的に見直し、最新版を維持。
- 文書管理体制の整備:
- 各種契約書や稟議書の保管ルールを明確化し、検索性を高めるシステムの導入を検討。
- 稟議制度の確立
- 意思決定プロセスの可視化:
- 稟議フローをオンライン化し、承認の遅延防止や進捗把握が容易になるようにする。
- ワークフローシステムの導入・運用:
- モバイル端末からでも承認が可能になるなど、迅速化・ペーパーレス化を推進。
- IT環境の高度化
- クラウド活用・リモートワーク環境の整備:
- 社内システムを段階的にクラウドへ移行し、セキュリティやアクセス権限管理を強化。
- 情報セキュリティの強化(ISO27001取得を視野):
- 社内規程と運用手順をISO基準に沿って整備し、監査対応や社員教育も行う。
3. 法務
担当者:法務担当者(専任)+ 弁護士、司法書士、行政書士、弁理士(外部リソース)
業務詳細
- 契約書の標準化・テンプレート化
- 契約リスクを低減するため、主要取引・業務に関するテンプレートを作成。
- NDA、取引基本契約、業務委託契約など。
- テンプレート利用状況をモニタリングし、随時アップデートを行う。
- 事業スキームの整理
- 事業領域ごとの法的リスクの洗い出し:
- ビジネスモデルを法的観点から分析し、許認可やライセンス、特許・商標など知的財産関連も含めて検討。
- 法令改正への迅速な対応:
- 新法や改正法が事業に及ぼす影響を分析し、必要に応じて規程や契約を改訂する。
- 機関法務(取締役会・株主総会対応)
- 株主総会運営の円滑化:
- 上場を視野に株主への情報開示や招集通知作成、議事進行のシミュレーションを強化。
- 開示資料の作成支援:
- 金商法や会社法等の要件を満たしたディスクロージャーを実施し、ステークホルダーの信頼を獲得。
- 社内コンプライアンス教育の実施
- 法務意識の醸成:
- 全社員対象のコンプライアンス研修や、ケーススタディを交えたセミナーを定期開催。
- 行動規範の徹底:
- ハラスメント防止や情報漏洩防止に関する具体的なルールを設け、違反時の対応策を明文化。
- リーガルチェックの早期介入
- 新規案件や契約締結の段階で法務が関与し、後戻りリスクや訴訟リスクを最小化。
- 各部門との相談窓口を整備し、法務担当者へのアクセスを容易にする。
4. 人事・労務
担当者:人事担当者(専任)+ 社労士(外部リソース)
業務詳細
- 採用戦略の策定
- 企業の成長フェーズに合った人材要件の見直し:
- マネジメント層・エグゼクティブ採用を強化し、ガバナンス体制を支える人材を獲得。
- 採用チャネルの多様化:
- リファラル採用、SNS活用、ヘッドハンティングなど、幅広い手段を併用。
- 労務管理の強化
- 勤怠管理システムの導入・運用:
- リモート勤務やフレックスタイム制にも対応できるシステムを選定し、規程と連動させる。
- 36協定の適正管理:
- 時間外労働の上限規制を遵守し、違反リスクを回避するための管理体制を整備。
- 退職時の対応マニュアル化
- 退職者の引き継ぎプロセスを標準化:
- 情報資産の取り扱いや顧客対応の引き継ぎ手順を明確にし、無駄な混乱を避ける。
- 退職面談の実施:
- 退職理由や改善点を把握し、組織改革や労働条件改善に活かす。
- 福利厚生の充実
- 健康経営の推進:
- 定期健康診断やストレスチェック、産業医との連携を強化し、従業員の健康管理をサポート。
- 職場環境整備:
- オフィス改革(休憩スペースや集中スペースの導入など)を検討し、エンゲージメント向上を図る。
- 従業員エンゲージメント向上
- 定期的なエンゲージメントサーベイの実施:
- 結果を踏まえたアクションプランを策定し、部署ごとにモニタリング。
- 社内コミュニケーションの活性化:
- 社内SNSの活用や定例ミーティングの見直しなど、情報共有の仕組みを強化。
Phase3のポイントまとめ
- ガバナンスの整備とリスク管理の強化を本格化
- 内部監査やリスクアセスメントを実施し、経営に対するチェックアンドバランスを機能させる。
- 経理・税務の高度化により、財務の透明性を確保
- 経理フローの自動化や早期決算体制を整え、上場審査への対応力を高める。
- 総務・法務において、規程整備と意思決定プロセスの標準化
- 重要書類の管理や稟議フローを見直し、組織全体のコンプライアンスを底上げする。
- ITインフラの強化により、業務効率とセキュリティレベルを向上
- クラウドサービスや情報セキュリティ基準(ISO27001等)の導入で、安全かつ柔軟な業務環境を実現。
- 人事・労務面では、採用・エンゲージメント・福利厚生の充実を推進
- 成長を支える優秀人材を確保し、離職率低減や社員モチベーション向上につなげる。
- バックオフィス機能の全体最適化を目指し、効率的な組織運営へ移行
- 部門連携を強化し、重複業務や無駄を排除。データ分析を活用し、経営資源を最適配分。
- 事業サイドと連携しながら、柔軟なルール設計を進めるフェーズ
- イノベーション推進とガバナンス強化を両立する制度設計を行い、将来の上場を見据えた基盤づくりを進める。
このフェーズでは、実験的な要素を残しながらも、ガバナンス・リスク管理・財務透明性を大幅に強化していくことが鍵となります。バックオフィス機能の高度化は事業拡大を支えるための重要な土台であり、各部門が協働して効率化と規律の両立を図ることで、上場準備を着実に進めることが可能になります。